【イベントレポート】角居’s battle talk「幸福について」
投稿日:2019.01.28
1月にCREEKSで開催された角居’s battle talk。コーディネーターを務めるのは、善光寺門前を拠点に活動するアーティストの角居康宏さん。
今回は幸福をテーマに、松本市にあるブックカフェ「栞日」を営む菊地徹さんをゲストスピーカーとして迎えました。
「菊地さんは『栞日』という店や『ALPS BOOK CAMP』というイベント、周りを巻き込んでいくことを淡々と進めている印象がある。前に会ったとき、誰かを幸せにするには個人の幸せが担保されていることが前提と言っていたけど、今日はそこのところ掘り下げようかな」と角居さん。話は菊地さんの学生時代に遡ります。
手の届く範囲の幸せを考えた大学時代
菊地さんは、国際と教育にまつわる分野を志して大学に入るも、国際という規模感に、何をどこまでやれば自分が充足感を得られるか次第にわからなくなったそうです。
「どこから手をつけるかのプライオリティを誰かが決めざるを得ない反面、勝手に決められた結果で傷つく人も生まれることに自分の限界を感じていて。
同じ頃、友人との間でこだわってコーヒーを淹れることが流行ってたんです。バイトをしたかったし、友人にいい顔したいというミーハー心もあってスタバで働き始めました」
「お金に対してちゃんと欲しいドリンクが出てきて好きな空間で飲める、お客様が求めるものやサービスを提供できた自分の充足感、手の届く範囲で誰も傷つかない幸せのサイクルに出会ったんですよね。
いつか僕なりのスターバックス、つまり幸せのサイクルを作ろうと決めて、そのとき『栞日』という名前も考えました」
卒業後は必要なスキルを身につけるため、やりたい仕事がある街に住みながら店を出す街を決めたいと考えるように。
決める、断つを繰り返して選んだ街
「サービス業に興味があったので、学ぶならホテルや旅館だ!と。そのきっかけもミーハーで、書店に行ったとき『死ぬまでに泊まりたい100のホテル』が特集された雑誌が目に入り、載っていた国内の宿のうち、中途採用をやっていたところをを自分でランキングにして上から順に試験を受けました。
縁があったのが松本市の旅館で、松本に来ることに。そこで後にパートナーとなる妻と出会ったんです」
サービスについて多くを学んだ後、最終的に自分が求めている規模の店作りについて経験するため、軽井沢のベーカリーに転職。
「軽井沢のベーカリーでは製パンを希望したのですが、自他ともにパン職人には向いていないことを認める結果に。おかげで『やりたくてもできないことがある』、『やれることのなかでやりたいことを探そう』と学びました。
もう1つよかったのが、一度松本を出たことで、松本という街をきちんと俯瞰できたこと。旅館は山のなかだったので、寮にいた頃は知らなかった街中を初めてあちこち見て、いい街だなって思ったんです」
松本という場所をあらためて見たことで、ここを「栞日」を作る街にしようと決めたそうです。
【コーヒー × 本 × 松本にないもの=栞日】
自分は松本で何ができるのか考えるために、リアルな持ち物を見直してみたそうです。
引っ越しを繰り返すなかで最小限に削ぎ落とされ、残ったのは自炊するための調理道具とダンボールいっぱいの本。そのなかでも国内の一人旅で買い集めた小さな出版物たちは、松本で買えないけれど買えたら嬉しい人がいるはず、と直感が働いたと言います。
栞日の2階。ここにある本はすべて購入できる
「小さな出版物は、編集者やスポンサーなど多くのフィルターを通さずに出せるので、熱量が削ぎ落とされにくい。
よい熱量の交換を自分が繋ぐことができたら幸せだし、そういう本屋さんがあったら街がもっと楽しくなるだろうし、寄り添い続けることはできると思いました」
自分と周りの幸せが循環するためには、続ける必要がある。
できることの中にあるやりたいことに、さらに続けるためのことを掛け算されて生まれた栞日には、菊地さんがひとつひとつ丁寧に選んだ本が並んでいます。
全ての想いや行動は地続きになっている
菊地さんは、長野県大町市のキャンプ場で夏に開催される「ALPS BOOK CAMP(アルプスブックキャンプ。以下ABC)」も手掛けており、本が主役となり、フードや雑貨を求めて県内外から来場者が訪れます。
「ホームページやロゴのデザインはプロにお願いしていますが、組織運営という感じはなく、結構自分でやっています。ABCへの出店は公募ではなく、縁があった方、ここにいたら面白いなというお店に声をかけています。おこがましいかもしれないけど、栞日と同様、自分の好きな本棚を作るような感じなんです」
また、できることの中のやりたいこと、続けるためのことの掛け算は、代表を務める「そら屋」の活動にも通じているとか。
「僕は、松本という街が自分が暮らすのに楽しそうで、さらに自分の本屋ができたらもっと楽しくなるという直感があったんです。だから今いる場所が暮らしたい街、好きな街で在り続けてほしい。
僕が松本のことを好きだと感じた要素のひとつである、城下町の風景や風情。それらを構成している小さな町家や商店が、空き家になって取り壊わされ、駐車場になるのを見て来ました。個人的に危機感を感じていたことが、空き家の利活用をプロデュースする『そら屋』の取り組みに繋がっています」
中長期滞在向けの宿・栞日INN(以下INN)についても、現在の店舗に移る際、今まで使っていた場所が好きでなんとか残せないかという気持ちがあったそうです。
栞日INNは中長期滞在向けの宿で、アパルトメント形式になっている
「僕が『この街やっぱり面白いな』と思い続けるには、僕自身が面白いことをやり続けることが大切だし、いっしょにやってくれる誰かがいないと楽しくないですよね。特に地方の小さな街だと、面白い個人がいるからこの街が面白いってなるんです。
一方で、新しい人が始めてくれる新しい要素があった方がモチベーションや刺激が生まれる。面白い人が新しく入ってきて、いいスタートダッシュを切ってもらうためにINNのような装置が必要になるんですよね」
滞在中におすすめスポットを伝えたり、面白い人と繋げたりして、自分がいる街で楽しいことができそうだと思ってもらえたら嬉しいと語る菊地さん。実際にINNの利用をきっかけに、神奈川県から安曇野に移住した方もいたとか。
個人という最小単位と地方の幸せ
「まぁそんな僕が好きな街を好きなままで暮らし続けたい、というすごく個人的なエゴイズムで全部できています。栞日もINNも、そら屋も、ABCも。でもスタバでの幸せのサイクルを見た経験があったから、それでいいと割り切ってます」
多くの決断をあまりに軽やかに話すので、参加者から「怖くないんですね」と感心する声が。
「個人という最小単位のチカラを、僕自身めちゃくちゃ信じてるんです。自分が幸せになった結果、地続きにいる人が幸せになるなら、そういう個人がたくさんいる世の中の方がハッピーじゃないですか。
僕が幸せと感じる要素に同じように幸せを感じてくれる人が、街に一人でも二人でもいると信じてやっていて。直感のような確信。だから怖さはないです」
ーーそれを聞いて角居さんは「面白い個人がいるということが、その街を訪れる基準になってきているよね。
エリアでわけるのでなく長野にはCREEKSの広瀬さんとか僕が、諏訪には誰が、と繋がっていくことで地方の未来に何かチカラが生まれそうな予感がしている」と締めくくり、イベントは終了しました。面白い人がいるということが、新しい地図の見方になってきている。自分が住むことを選び続けている場所で、面白いことをしたくなった夜でした。
次回の角居’s battle talkもお楽しみに!
次は2月開催予定です(詳細後日アップ)
ライター 渡邉文香
1986年生まれ。ホテルのフロント、書店員を経験したのち子育てメディアでの執筆、編集業務に携わる。
現在は上田市、佐久市を拠点にライターとして活動中。16名のママと共に、自分と向き合うノート部の部長も務めています!