【イベントレポート】リディラバ代表の安部さんから学ぶ、地域課題との関わり方
地域の無関心を打破する〜まずは当事者意識から〜
投稿日:2017.11.17
『株式会社リディラバ』をご存知ですか?
“社会の無関心を打破する”をスローガンに、社会課題の現場に実際に足を運ぶ『スタディツアー』をはじめ、修学旅行のコーディネートやメディアづくりなど、社会課題と若者の接点づくりを行なっています。はじまりは、東京大学の学生が立ち上げたサークルでした。
起業家から事業をはじめたキッカケなどを聞き、生き方の選択肢として、”起業”をより身近に思ってもらうためのイベント『ナガノスタートアップ・スタディ』。10/28(土)開催の会では、株式会社リディラバの代表である安部さんをゲストに迎えました。
“社会課題に日本一詳しい”起業家として、著書やテレビ出演などで、華々しい活躍をなさっているように見えます。しかし、「元々は、自分が社会課題だった」と話をするなど、今に到るまで、様々なエピソードが。
どうしてリディラバを始めたのか?
社会課題ってなぜ解決することが難しいのか?
自分が社会課題に対してできることってなんだろう?
などなど、
安部さんから、社会課題に対して行動を起こす上での最初の一歩を学ぶ2時間(講演+質疑応答)のレポートです。
キッカケは自らが”社会課題”だったから
ほぼ満員の会場には、高校生はじめ、幅広い年齢層が集まりました。参加者同士の自己紹介から始まり、和やかな雰囲気。
安部さんが”リディラバ”をたちあげたエピソードから、講演はスタートました。
「リディラバを始めたのは、14歳の時に親をバットで殴って、家を追い出され、路上生活を始めたのが全てのキッカケで…。その時はまさしく、自分が社会課題だったわけですよ」
一瞬、最初の和やかさとは対照的な静けさに、会場は包まれます。
「その後、親戚のおかげで、なんとか大学の付属高校に入れたんです。しかし、成績が悪すぎて、付属高校なのに大学に行けないことが、クラスのホームルームの時間に発覚しまして…。しかも進路のことなのに、個人面談ではなく、クラスのみんながいるホームルームなんですよ!笑
そうしたら、その話を聞いていた同級生が、当時、流行していた『ドラゴン桜』を紹介してくれて、暇な同級生たちと一緒に『東大合格プロジェクト』が始まり、猛勉強。負けず嫌いの性格もあり、東大に入ることができたんです」
漫画みたいな展開…。
しかし、『ドラゴン桜』同様、”大学に入ること”が目的だった安部さんは、入学後のことはほとんど考えていなかったそう。そんな燃え尽きた安部さんの心に、再び火をつける言葉との出会いがありました。
「大学1年生の時、東大の教授から、ノーブレスオブリージュ(高貴なる義務)の話があって、『東大生は学費の面など、社会的に恵まれた環境にあるから、もっと社会に還元をしなくちゃいけない。』というのです。
そのエリート意識に対して、違和感を感じたんですよ。だって、自分が14歳の時、路上生活をしていた時も、東大生は助けてくれなかったわけです(笑)。
そんな違和感からも、社会課題は一部のエリートだけでなく、みんなで関わっていくべきものなのではないかと思い、学生のサークルからスタートしたのが”リディラバ”です」
起業のキッカケとして最も大きかったのは、自らが社会課題の当事者側にいた時に感じた違和感。この社会課題に触れる体験こそが、行動を起こす上での大きなポイントだそうです。
社会課題の現場に足を運ぶことから、全てがはじまる
リディラバが主催したスタディツアーは、まちづくりからホームレスまで幅広いジャンルで200を超えています。6000人を超える人々を社会問題の現場に送り届けています。どうして、それだけ沢山の人が惹きつけられるのでしょうか?
「社会課題の現場は学びが大きいからとっても楽しい。現場に行くことを通して、社会課題の”本質的な課題”を見極めることができるんです。
例えば、ホームレスは貧困の問題のように見えるじゃないですか。
でも実際に現場に行くと、働きたくても、働けない『心や体の”障がい”』とどう向き合っていくのかの問題なんですよ。そして、その人たちと一緒に話しをしたり、働いたりしてみると、課題に対するイメージが変わるんです。」
普段、ニュースで課題を知ると、〇〇すれば解決するのでは…?と、思ってしまうこともあります。ただ、課題の現場に行くと、そんなに単純な問題ではないことに気づかされるのです。様々な課題の現場に行ったからこそ、感じることもあるそう。
「様々な現場に行って、社会課題に取り組んでいる人たちの、その課題に対し、関心を持ってくれない人の多さへの諦めの気持ちを感じて。どの現場の人たちも、そう思っているということは、これは社会課題全般に共通する構造の問題でないかと感じたんです。」
安部さんが語る現場に行くことで気づいた社会課題に共通する”課題”こそが、無関心を打破していくリディラバの根っこにあることに気づかされる話でした。
社会課題に立ちはだかる3つの壁
リディラバの事業は様々な形式で、社会課題の当事者とそうでない人の接点をつくっています。当事者だけで解決できないから”課題”として存在するので、いかに当事者以外に関わってもらうかが重要。しかし、社会課題の関わりをもつまでに、3つの心理的な壁があるそう。
それが
ー
・関心の壁ーそもそも社会課題に対して興味がない
・情報の壁ー社会課題に興味を持とうとしても、可視化されていないから、分からない
・現場の壁ー可視化されて、関心があっても、現場に行くことに対し、心理的な壁がある
ー
です。
これらの壁に対して、どのように事業で向き合っているのでしょうか。
「スタディツアーを行なっているのは、『赤信号、みんなで渡れば怖くない』みたいな部分があって。1人じゃないから、心理的なハードルも下がるし、参加者同士でディスカッションもできるので、課題に対する認識を深めることもできます。ツアー参加者同士で結婚した人もいるんです(笑)。ちなみに元々、自分がダムに行くのが好だったことが、スタディツアーのアイデアのキッカケになっています。
また、『リディラバジャーナル』というメディアを制作中です。SNSで、情報を受け取る機会が増えた結果、自分の友達といったフィルターがかかっているんですよ。だからこそ新しくつくるメディアでは、時間をかけて取材して、社会問題の構造上の課題を可視化できればと思っています。
他にも、ある程度強制的にというか、既存の仕組みを活用するのも、接点をつくる上では重要だと思っていて。修学旅行や社員研修、採用試験などのコーディネートもやっています。」
社会課題に関わる壁を打破するために、様々な工夫があるそう。ただ、社会課題の現場側に負担になっている場合もあるのではないでしょうか?
「社会課題の現場に行くことの大事さは、外側の人が行くことによって、中の人の意識が大きく変わる。社会問題の当事者は、本当は社会とつながりを求めている場合もあるので、いかに仕組みづくりを行なっていくのかが、重要なんです。
だから単なるツアーやメディアではなく、その社会課題へ誰もが簡単にアクセスできる”インフラ”をつくりたいと考えています。」
社会課題を事業性の観点から考えることの重要性や自治体との協働事業や社会課題解決における事業性の重要性…。熱いお話は、あっという間に1時間半経過。質疑応答へとうつります。
エネルギーに溢れる安部さんのモチベーションはどこから?
質疑応答の時間は、参加者の方が直面した課題のことや高校生からの感想など、安部さんと参加者による”ディスカッション”となりました。
安部さんの一人一人に真摯に向き合う姿勢やその熱量の高さからか、最後は「安部さんの原動力って何なのですか?」という質問に。
「自己肯定感、そしてマインドセットが重要。これはグロースマインドと言うのだけど、根拠がなくてもいいので、自己肯定感は大事だと思ってます。失敗したことがあっても、自分は成長していずれできるということを思ったり…。もはや暗示ですね(笑)。
一時期自分が、自分自身を嫌いになることはしないと、決めていた時期があって。それを自己対話して、突き詰めていった結果、今のリディラバの事業があるんです」。
“cool head but warm heart”とはまさしく、安部さんのための言葉なのではないかと感じる講演でした。社会起業における本当に大事なことは、社会のことを知ることはもちろん、自分自身を知ることであると、気づかされました。
ライター 藤原正賢
長野県出身。高校時、廃線になる私鉄を活用した企画に参画し、地域づくりに関心をもつ。大学進学後「信州若者1000人会議」の立ち上げに携わり、「小布施若者会議2014」の実行委員長として運営の中心を担う。2016年に株式会社BAZUKURIを創業。地元である長野市を拠点に、地域の情報発信や教育プログラムなどのコーディネートやコミュニティづくりを行っている。